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2022.08.11AKKOの遠足
*太字の箇所からはリンクが見られます
今年2022年の6月に、NY Phillipsのオークションで《ミス・ブランチ》という一脚の椅子が出品され、516,600ドル(68,584,590円)で落札された。
この椅子は、今は亡き倉俣史朗がデザインして、1988年に発表されたものだ。
コクヨでプロトタイプ(肘掛が波型)が作られ、その後イシマルで製品化された。
ほとんど手作りだったため56脚しか生産されていない。
販売当時は200万円だったので、30倍以上!
初めは生花の薔薇で試みたけれど、色も形も良くなかった。
そこで、アクリルと相性の良い造花を探し、
染料がアクリルに溶け出したり、形状がうまく保持できなかったりと
試行錯誤が繰り返されて、
最終的に一番安い染料と布でつくった薔薇が選ばれたそうだ。
この試行錯誤を重ねた職人さんというのが、斎藤正春さん。
ふわふわ綿毛のタンポポをアクリルで封じ込めたキューブ《蒲公英の封印》で
有名なアクリル加工業者 株式会社正高化工の職人さんだ。
2012年に80歳を迎えられたというから、今は90歳(?)
残念ながら10年前に廃業されてしまったという。(廃業の逸話)
でも斉藤正春さんのお嫁さん橘あおいさんが、
小さな工房を開く準備をされていると書いてあったので、
どこかでその技術は継承されていると信じよう。
ちなみにこの《蒲公英の封印》もオークションで取引されていた。
でも可愛い綿毛を手放す人は、なかなか出てこないだろう。
実際に実物のMiss Blancheを間近で見たけれど、一つの気泡もなかった。
アクリルで”固まっている”というよりは、そのまま閉じ込められて”浮遊”している。
一本の造花が、より美しく、その美しさを永遠に留めている。
方向によっては、1本の薔薇がいくつにも見えて
小さな鏡の世界を思わせる。
写真が自動圧縮されて鮮明でないので、オークションサイトでご覧ください。
1988年 販売当時は200万円だったのが、海外サイトも調べてみると
1989年 269,000£(約4300万円)
1997年 89,000$ (約1200万)
2000年 82,250$ (約1100万)
2022年 516,600$(約6850万円)
という記録がある。(円換算は現在のレート)
モノの値段というのはあってないようなものだなとも思う。
あの中田英寿氏も所有しているらしい。
武蔵美の美術館で開催されているこの『みんなの椅子』
なんと1967年の開館以来収集してきた400脚を超える椅子が所蔵されており、
今回はその中から約250脚が展示されているというから凄い。
こんな多く秘蔵の椅子が一般公開されるのは初めてだとか。おまけに入場料は無料。
この展示会のおすすめポイントは3つある。
一番初めの《近代椅子デザインの源流》の展示は、
まるで時空のトンネルを潜り抜けるような上手い展示だった。
椅子にはNO.がふられていて、
手元のスマホで作品リストが写真と共に見ることができて便利だった。
本や雑誌で見たことのある、あの椅子に実際に座ることができるという太っ腹。
さすがクリエイターを育てる武蔵美。
椅子はデザインや素材だけでなく、実際に触って、座ってみなければわからない。
倉俣史朗のブースは、暗がりの中に椅子が浮遊するようで、独特の空間だった。
暗闇にライトがついているのは、ヨセフ・ホフマンへのオマージュ。
HausKollerのソファに電飾がついていて、ライトが点いたり消えたりしていた。
スチールのメッシュでできた『How High the Moon』
座るのにドキドキディそうな『硝子の椅子』
そして、赤い薔薇を永遠に封じ込めた『Miss Blanche』
倉俣氏のデザインに負けないような梅田正徳のユニークな形の椅子。
青いバナナのような『月苑』、『花宴(サクラ)』、『浄土(ハス)』
良いものを良い形で見ることができた。
私も、目の保養をしながら実際に座ってみて
座り心地の良い椅子ベスト3と
それとは別に、座り心地も良くて、実際に欲しい椅子を選んでみた。
建物を後に、中央広場を抜けると図書館があった。
藤本壮介が、
「すべての<外>を内化し、すべての<内>を外化する渦巻き」
「本の森」
と称してデザインされた建物は、
一見すると何故ここにこんな硝子の建物が!と思うのだけれど
よく見ると硝子の外壁の中には本棚が収められていて驚いた。
図書館の内部も素晴らしいそうなので、ムサビ生のレポートを貼っておく。
図書館レポート
こんなに恵まれた環境で、いったいどんな芸術家が育っていくのだろう。
まだまだ今の世の中で、十分に食べていかれるのは一握りかもしれないけれど
近い将来には、自然や地球環境をも考えながら、素敵なデザインが
生活だけでなく、多くの建物や施設、何気ない標識やモノに
取り入れられるのが当たり前な世界になっていくのだろうなと思う。
ふと見ると、校舎の片隅で女学生が、心地良さそうに本を読んでいた。
あまりに自然で感じのいい雰囲気に、勝手にシャッターを押してしまいました。
きっとこの子は、触りごとちとか、心地良さのある素敵なデザインを
世の中に生み出してくれる気がする。
◆『みんなの椅子』ムサビのデザインⅦ
【前期】2022年7月11日〜8月14日
【後期】2022年9月5日〜10月2日
✳︎水曜日休館
12:00〜20:00(土日祝は10:00〜17:00)
武蔵野美術大学 美術館展示室
JR国分寺駅からバスが便利でした
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